ベイカー (California, USA)

アメリカ、カリフォルニア南東部、モハヴェ砂漠の中に位置する町。世界一高い温度計を見ながら灼熱の地を感じる。

アメリカ、カリフォルニア州東部にある町。ロサンゼルス東部からラスベガスへ向かう州間道路15 (インターステート15)の途中にある。ロサンゼルスとラスベガスの間を行き交う人、あるいは長距離トラックを運転する人が休憩のために立ち寄る場所である。何か特別なものがある訳ではないが、とても印象に残っている場所だ。

まず、この場所は、周りは砂漠。正確に言うと土漠地帯、何もない。別の言い方をすると、不毛の地という言葉がしっくりくるだろう。不毛の地の中にある町、見方を変えるとオワシスという言い方もできる。ロサンゼルスとラスベガスの間を車で行き交う時、中間地点にあるこの町は、休憩するのにちょうど良い位置にある。ちなみに、周辺の町と呼べる場所は、北は80㎞離れたプリム(Primm)、南は100㎞離れたバーストゥー(Barstow)になるため、このベイカーで休憩するしかないというのもあるかもしれない。

町のメイン通りは、インターステート15と並行に走っている。インターステートを降りると、このメイン通りに合流する。町の中央には信号機のない交差点があり、南北に向かう道路が交差している。北に向かうと「デスバレー国立公園」。南に向かうと「モハべ国立保護区」。両方とも自然の驚異を感じることができる空間で、お気に入りの場所だ。

さて、この町には世界一と呼ばれるランドマークがある。交差点のすぐ近くにある世界一高い温度計だ。コンクリートの細長い棒状のタワーはそのまま温度計になっている。高さは41m(134フィート)。インターステートを走ってこの町に近付いてくると、一番最初に目にすることになる建造物だ。このランドマークは、北にあるデスバレー国立公園内のファーニスクリークという場所で1913年に観測された世界最高気温、摂氏57度(華氏134度)を記念して1991年に建設された。初めてこの場所を訪れてこのランドマークを目にしたとき、巨大な温度計を建ててしまう発想に驚かされた。タワーの下に立って見上げると、なかなかかっこいい。「へえっ」と言う感じ。なかなか目にすることができない類の建造物だ。

この世界一高い温度計の下には、ビジターセンターのようなものがある。昔は、南にある「モハべ国立保護区」のビジターセンターだったが、2018年に訪れた時には、お土産屋のようなものになっていた。このお土産屋にいた年輩の女性と話をしたところ、この女性は、この世界一高い温度計の麓にあったバンボーイレストラン(Bun Boy Restaurant)で20年間働いていたということだった。

このバンボーイレストランだが、かつて、この町のランドマーク的なレストランだった。子供が大きなハンバーガを抱えた絵がレストランのアイコンになっていて、ベイカーに立ち寄る時は足を運んだ。普通のファミリーレストランだが、落ち着く場所だった。レストランには、世界一高い温度計の絵が描かれた「the Original IQ Tester」というボードゲームが販売されていた。外は灼熱なのに、レストラン内は冷房が効き快適で、薄いコーヒーを啜りながら、時々テーブルを廻ってくるウェイトレスと短い会話を交わした。

このレストランは、2018年に訪れた時には既に閉店となっていた。ただし、バンボーイレストランがあったことを示す記念碑的な看板が残っていた。

さて、交差点の角にはこの町を代表するもう一つのレストランがある。ギリシャ国旗の色である白と青でモチーフされた「マッドグリークカフェ(Mad Greek Cafe)」だ。ギリシャ系料理を出すセルフサービスのレストランで、肉料理のジャイロ(Gyro)が美味しい。店内もブルーのボックス席が並んでいて、ゆったりできる。

この町は、10回程度足を運んでいるが、春から夏にかけてはとにかく暑い。この付近で世界一高い気温が観測されたぐらいだから当然ではあるがーー。メイン通りの脇に車を止めて「世界一高い温度計」を背景に町を眺めると、コンクリートの路面から湧き上がる熱波が揺らめき、町の動きが止まってしまったのではないか、という情景に出くわすことがある。ある時、ガソリンスタンドでガスを入れていると、隣のガススタンドに居た人が、世界一高い温度計の数字を見ながら、「おいおい、凄い気温だねえ、ところで、ここはどこだかわかるかい?」と私に訊いてくるので、「ベイカーですよね」と、私が普通に答えると、その人は私に向かってこう言った。

「違うよ、ここは金星なんだよ」

世界一高い温度計の麓の土産物屋にいた女性によると、現在の町の人口は500人程度、「昔は700人程いたんだけれど」ということだった。90年代初めの最初の訪問時は、モーテルが3-4軒あったと記憶しているが、今では1軒しかない。私は、今までに2軒のモーテルに宿泊したが、いずれも古く、わざわざ宿泊したくなるような場所ではなかった。おそらく、車が進化したことより、ラスベガスやロサンゼルス近郊まで走ってしまえるようになったことが関係しているに違いない。

この町の情景を描いた小説がある。ダグラス・クープランド著、「ライフアフターゴッド」の短編集にある、「イン・ザ・デザート」だ。この中で書かれている、ベイカーの様子が書かれた部分を最後に紹介する。

「この街はまるでトワイライトゾーンの挿話さながら、サツで溢れていた。どのダイナーにもサツが二人はいて、CHiPS(カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール)もいれば、サンバーナディーノ地区警察もいる。ジョークにもなりゃしないが、50マイル四方どこを見渡しても木一本もないのに、二人の森林警備隊員だっていた」(*)

これを読んで、あなたは行きたくなっただろうか? 私は何回でも行きたくなる。なぜかは分からない。こういうのには理由はいらない。

1993年、1995年、1998年、2002年、2005年、2010年、2018年訪問

(*) 引用:ライフ・アフター・ゴッド ダグラス・クープランド著(1996年 角川書店)

​基本情報

​■ 名称 : ベイカー、カリフォルニア
■ ホームページ: https://en.wikipedia.org/wiki/Baker,_California (Baker, California,Wikipedia)