ベネッセハウス (Naoshima Island, Kagawa, Japan) 

瀬戸内海に浮かぶ芸術の島。美術館の併設ホテルで非現実感を満喫し、ナイトミュージアムを楽しむ。

香川県、直島にある現代美術館。1992年開館。この当時、日本にある現代美術館で思い浮かぶのは、東京で言えば、原美術館(2021年1月閉館)とワタリウム美術館ぐらいであり、そういう意味で、現代美術館の奔りとも言えるだろう。その後、2004年に、このベネッセハウスからバスで5分程の場所に地中美術館が開館。続いて、2010年に瀬戸内国際芸術祭が始まると、直島は現代芸術の島として、世界的に有名な場所となった。すなわち、このベネッセハウスは、現代美術の発信地として、その歴史の出発点となった美術館とも言える。

この美術館はコンセプトが凄い。何しろ美術館にホテルが付いているのだ。世界中を歩き回ったが、ホテルが付いている美術館は見たことがない。斬新なアイデアだし、それを形にし、実現したという意味では賞賛に値する。ホテルは、「ミュージアム」「オーバル」「パーク」「ビーチ」という名称で四カ所にある。ベネッセハウスのメインとなる美術館がある建物にホテル・ミュージアムが付属し、ホテル・オーバルは美術館の建物から宿泊者専用モノレールに乗車するという拘りだ。ホテル・パークとホテル・ビーチは、ベネッセハウスから歩いて5分程の場所に建っている。

美術館は、夜の9時まで営業しているが、ホテル宿泊者は、夜の11時まで鑑賞ができる特典が付いている。いわゆる「ナイトミュージアム」を具現化できる場所だ。「ミュージアム」の部屋は、展示室の脇に位置しており、夜、部屋で寛いでいて、「あっ、あの作品をもう一度見たいなあ」と思ったら、部屋を出てすぐの場所に作品が展示されていて、しかも誰もいない環境で鑑賞できる優れものだ。

展示作品については粒揃いだ。名が知れている作家だと、デビット・ホックニー、宮嶋達男、杉本博司、柳幸典、ブルース・ナウマンあたり。柳幸典は4作品が展示されていたが、「バンザイコーナー」と「ザ・フォービドゥン・ボックス」は、気骨のある作品だった。この作品の意味は、この美術館で毎日行われるギャラリーツアー(無料)に参加して、是非、話を聞いていただきたい。私はこの話を聞いて、その奥深さにしばらく唸ってしまった。「現代芸術は、こうでなければ」と、忘れていた何かを思い起こさせてくれる作品だ。

もう一つ、ハイライトは、ブルース・ナウマンの「100生きて死ね」というネオン系の作品と、この作品が展示されている空間だろう。十五メートル程ありそうな高さの空間に、作品が一つだけ置かれている。作品の前に椅子が置かれているが、夜遅く、あるいは、朝早く誰もいない静寂の中、椅子に座ってネオンが点滅するのを眺めていると心が落ち着く。素晴らしい空間だ。

尚、2022年に訪れた際は、パークの建物の正面入口から階下に下りたスペースが杉本博司の作品で埋め尽くされていた。杉本博司が好きな方は是非訪れていただきたい。

最後に、ホテル・オーバルについて書いておきたい。このホテル・オーバルは、美術館がある建物から宿泊者専用モノレールに乗って4分程度、山の上にある。モノレールは6人乗り。遊び心満載で眼下に見える瀬戸内海の景色が素晴らしい。「よく、こんなの作ったよねえ」と感心してしまう。部屋は、名前の通り、オーバル状(楕円、卵型)の人工池があり、その周りに6部屋が配置されている。非現実感満載。部屋からは瀬戸内海が見下ろせ、部屋には余計なものはない。日常生活で嫌なことがあった時に、心を鎮めるため、リラックスするため、隠居するため、これほど条件が整った場所はないのではないだろうか。宿泊費は高い。ただ、それだけの価値がある場所と言えるだろう。

尚、館内は、最初の訪問時は写真撮影禁止だったが、2022年訪問時には写真撮影が可能となっていた。2021年3月より写真撮影可になったということだ。ちなみに一作品だけは写真撮影禁止となっているが、この理由については、ギャラリー・ツアーに参加して訊いてみていただきたい。

2010年、2022年訪問

​基本情報

■ 名称:ベネッセハウス
■ 住所 : Kotodanchi, Naoshima-cho Kagawa-gun, Kagawa-ken
■ ホームページ:
http://benesse-artsite.jp/art/benessehouse-museum.html