イースター島(イスラ・デ・パスクア島) (Chile)

太平洋に浮かぶ孤島、辺境の地。モアイ像を目にし、この地で繰り広げられた「文明崩壊」を想像する。

世界でも、地理的に辺境の地として知られる場所。モアイ像がある場所と言えば、多くの人が理解できるのではないだろうか。飛行機で入ることになるが、チリのサンティアゴから約5時間。感覚的には、日本、あるいは、アメリカ本土からハワイへ行く感覚に近いと思うが、島の特異さという視点では、抜き出ている場所だ。

この場所を訪れるに際しては、歴史を理解しておくのはマストだろう。事前に知識を入れて、モアイ像を含めたこの島を観ると、特別な感情が湧くはずだ。

まず、事前学習だが、私は、「文明崩壊」「暴走する文明」の二冊の本を読んだ。この二冊には、イースター島についての記述があり、非常に興味をそそられる。この場所は、文明の崩壊を具現した場所なのだ。簡単に要約する。

「ポリネシアから辿り着いた人が住み始め、その当時は自然豊かな島だったが、人口が増え始め、木材、海鳥など、島の資源を使い果たし争いが始まり、人口は減少し数える程度になった。モアイ像は、当時の王あるいは位の高い人の偶像で、村の人々を見守るために作られ崇拝されたが、資源が枯渇し争いが始まると、像は倒されていった。尚、この島の人たちは、地理的な問題により他の島と交流ができなかったことも文明崩壊の一つの要因となっている」

さて、この場所を訪れて、非常に興味を覚えたのは、人々が非常に優しいということだ。田舎ということもあるが、皆、非常にフレンドリーだ。例えば、誰もいない道を歩いていると、正面から歩いて来た女性が私の姿を目にして立ち止まり、驚いた表情で私のことを見ながら、満面の笑みとともに日本語で挨拶してきたりする。また、私は、ある場所を探していて、この島の中心であるハンガ・ロア村に並ぶ店や通りにいる地元の人、十人程度にその場所を訊ねたが、全員が、嫌な顔もせず答えてくれたし、ATMが動作しないと、近くの銀行まで連れて行ってくれた。

上述の本を読んで理解したのは、この島は、かつて、複数の部族が、それぞれ自分たちの土地で生活していたが、異なる部族間でも交流があり、平和だったということだ。後に、資源が枯渇し争いになるが、基本的には相手を敬うDNAがあるのだろう。

島には、モアイ像を中心とした史跡が多数あるので、ガイドの人に頼んで廻って欲しい。単独で廻ることも可能だが、場所を探すのに苦労するだろうし、ガイドの人の生の説明とやりとりがないと、この島が辿ってきた歴史を感じることはできないだろう。

個人的なオススメの場所は二カ所。一つは、モアイ像が切り出された場所であるラノ・ララク。もう一つは、オロンゴ遺跡。ラノ・ララクは、山の斜面に、完成前、移動前のモアイ像が点在している場所で、緑の牧草の中に点在するモアイ像の姿が圧巻。島内には、モアイ像が整列した場所がいくつかあるが、私は、像が点在したこの場所が一番印象に残った。

個人的には、「文明崩壊を具現した場所」を確認する目的で訪れたが、平和な穏やかな場所という印象が残り、おどろおどろしいものを感じることは一切なかった。現在は、物資がチリ本土から運ばれてくるため、かつてのような文明の崩壊が起こることはないと思うが、人間が持つ欲求が過剰になることより、バランスが崩れ、問題が生じるという教訓は、常に頭の中に入れて行動することが重要なのかもしれない。

尚、このラノ・ラククには、足があるモアイ像がある。これは、亡くなった息子を思い出し、従来の像とは違うものを作った人がいたが、王より、反逆行為と判断され殺されたということだ。例えば、仏像には一定の形があるように、おかしなことはしてはいけないということらしい。この像は、なんとなく、歩いているだけでは見逃してしまうので、ガイドの人に連れて行ってもらうのがいいと思う。

もう一つは、オロンゴ遺跡。ここは、島の南にある火山噴火口の上に存在するが、ここから見える、鳥人儀礼が行われた、鳥の卵を取りに行く目的地だった眼下に見える島(モツ・ヌイ島)の景観と、何より、眼前に広がる果てしなく続く紺碧の海の景色が圧巻。この島が太平洋に浮かぶ孤島であるという認識を持ったうえで、この景色を眺めると、この場所にカヌーを漕いで辿り着いた人がどのような思いだったのか、その思いを馳せることができるし、そもそも、このような場所でも人が生活していることに驚かされるに違いない。

少し、違った見方では、この島で起こったことは、現在のものさしに置き換えると、地球全体になっているという見方ができる。つまり、地球全体での資源枯渇、人口増大の問題を解決しないと、この島で起こったことと同様のことが起こるかもしれないということだ。もう少し、話を敷衍すると、地球資源が枯渇したときに備え、地球外へ脱出する必要性が出てくることも考えられ、そういう意味で、地球外へ出る技術が必要となるのかもしれない。

ちなみに、この島は、非常に安全で夜中に暗い場所を歩いていても危険ではない。ガイドの人曰く、「悪い人が全くいない訳ではないので、注意した方がいいよ」と言われたが、人の視線を感じたり、嫌な印象を受けたことは全くなかった。

宿泊した民宿は、庭に、犬、猫、鶏が闊歩するような場所で、ホテル運営の人と、毎夜、コーヒーを飲みながら話をすることができた。最近は、観光客が増えたことより、ビジネス的には上手くいっているように聞こえたが、昔に比べ車が非常に多くなったことを気にしていた。また、この場所は、平均寿命が非常に長いということであり、100歳以上の人が多いそうだが、ホテル運営の女性は、毎晩会うと煙草を吸っていた。「煙草は身体に良くないよ?」と言うと、「そう、私の連れは煙草は吸わないけど早かったわ」と、笑いながら答えていた。

この場所は、世界中に足を運ぶ人にとっては、究極の到達地の一つという気がするが、この島の歴史を理解しながら、島の人々の温かさを感じていただければと思う。

2019年訪問

基本情報

​■ 名称 : イースター島
■ ホームページ:
    https://www.britannica.com/place/Easter-Island